ある時、天井の上で「ねずみ」が走ってる音がした。 ふーん。いるんだ。。。 昭和のマンガに、 天井で運動会してる。って、 貧乏な家の描写があったよなー。 そのまんま。 自分は、それまで、いろんな場所で店子をやってきたけど。 何かあっても大家さんに物申すことはほとんどなかったので。 天井上の事、どうにかした方が良いとは思ったけど、大家さんに相談する事は思い浮かばなかった。 時々、夜の営業時間中で、お客さんがいる時に天井の上から運動会をする音がすると、下から使えなくなったビニール傘でコツンコツンと突いていた。 それは秋口だったけど、春を迎えると一気に増えるよ〜。って友達が教えてくれた。 いわゆる、ねずみ算。 できれば、早いトコどうにかしたかったけど、何をしたらいいのかわからなかった。 初めてのことだったから。 頭の隅に、何となく不安要素として「ねずみ」のことがあったけど。 ある時、更に深刻な問題が持ち上がった。 「羽アリ」 とある春、昼の営業中にお客さんに呼ばれて行くと。 「これ」って、持って行ったご飯を指差してる。 見ると、ご飯の上に何か小さな虫がいる。 ゴキブリか?って心配になったけど、そうではなくて。 羽アリが1つのってた。 そのお客さんが言うには、「上から降ってきた。」 お客さんと自分で顔を見合わせて、天井を見上げると、ちょうど真上にほそーい隙間があった。 どうやら、そこから落ちてきたみたいだった。 そっこーでお取り替えします。って新しいご飯を持って行った。 嫌な思いをさせてしまったので、会計の時、お代はいりません。って言ったら。 そのお客さん、「美味しかったからいいよ!」ってお金を払ってくれた。。 翌日からは、その席をなくして、椅子を片付け、テーブルの上にはお花を置いてみた。 これが学校の教室じゃなくて良かった。。

それからすぐに、几帳面なおっさんも「公団」に当たっていなくなった。 いなくなる時のおっさんたちは、妙にうれしそうだった。 後から聞いた話だと、おっさんたちが住んでたのは 六畳 風呂なし トイレ&キッチン共同 で。 その近辺の、型落ちワンルームマンション並みの家賃を払ってたんだって。(もちろん、型落ちワンルームマンションにはキッチンだって風呂だってある!) そりゃ、うれしいよね〜。 公団は、 2kで。 風呂ついて。(キッチンは当たり前だし、トイレはあるし) 家賃がそれまでの半分以下だったら。 孤独死を嫌がる風呂無し物件の大家さんたちが、年寄りになかなか部屋を貸してくれないので。 家賃の安い別の物件に引越すことも出来ず、 身を寄せる事のできる親族もいないため、 おっさんたちは、六畳一間にバブル期並みの高い家賃を払って来ざるを得なかった。 我が大家さんに言わせると、 主人と買った初めての物件だから、あまり手を加えたくないし。 古い造りだから、設備をいじるような事はしたくないし。それに耐えられるかも疑問だ、と。 それを言い訳に、管理をせず。 結果的に引っ越しの出来ない年寄りから、高い家賃をとっていた。 自分は、 借り手がつかなくて、何回かの値下げの結果、かなりお値打ちな家賃で借りることのできた店子だったから、 おっさんたちの大変さはあんまりピンとこなかった。 ちなみに。 自分がその店を借りた時は、内装はいじっても良いけど、退去する時には造作費を請求しないでね。 って大枠の内容だった。 それが後になり、面倒な事へとつながった。 おっさんたちも猫もいなくなって、静かになった。 おっさんたちが住んでた部屋は、あまり掃除もされずにそのままあった。 時々、誰かが階段を登り降りする音が聞こえた。 木造だから、靴のまま階段を上がるとギシギシ音がする。 安普請なので「その人」の体重までも伝わってくる。 なので、 「土足厳禁」の張り紙をした。 静かで良かった。 2、3年借り手がなかった。 時々、誰かが階段を上がる気配がしたけど。

餌とベッドくらいならなら用意できるかな。って思い、 自分とこの店の隅に、毛布を敷いたダンボールを置き、チビを案内してみた。(冬だった) 飲食店的に猫はあまり宜しくないかもしれないけど、その頃既に猫カフェとかあったから、この際やむなしだった。 後から知ったけど、猫のベッドは、小さくてもいいからお鍋が良いんだって。 理想を言えば、土鍋。 丸まって寝れるから。 猫好きの人から教えてもらった。 で、その時。 「チビ」は頑張ってそこに馴染もうとして、何回かダンボールを出たり入ったりしてたけど。 結局、「無理」って顔して店の裏口から出て行った。。。。 カラーボックスの下の段も、何気にスクエアなのに大丈夫でも、ダンボールじゃダメみたいだった。 それからは、どこに住んでるのかわからなかったけど、昼間に「その辺」でチビ見かけることがあった。 でも時々、「やっぱり」ってチビは戻って来る。 階段を少し上がっただけなのに。。 いつの間にか、ホウキを振り上げた、几帳面なおっさんが仁王立ちしてて、怖い顔して2階から見下ろしてて。 そこから上へ上がるのは無理!を醸し出してた。 テレビは大音量じゃないとダメなくせに、 チビの気配はとっさに感じとって、階段の下から2,3段くらい上がっただけでも飛んでくる。 おっさんも生きるのに必死だったんだろ。 しばらくの間は、近所でチビを見かけてたけど、なんとなくいなくなった。 後からお向かいの人に教えてもらったのは、 チビを、いなくなったおっさんに世話してあげた人:、通称: 猫の人が近所に住んでて。 その人がまた引き取ってくれたんだって。 良かった。。 その「猫の人」は、「欲しい」っていう人に猫をあげてて、 別の近所の人は、動物病院に猫を連れて行き&自前で費用を払って不妊手術を受けさせてくれてた。 そうやって、その町の猫事情が成り立ってた。 猫が路地裏を歩く。そんな光景をよく見かける町だった。 どいつもこいつもオドオドした様子はなくて、のんびりその辺を徘徊してる。 路地を通りすがる女子は、しゃがみこんで写真を撮ってる。 「カワイイ❤︎」 他所からの流入組が多い町なので、孤独なおっさんたちが多かった。 そんなおっさんたちも、そこいらの猫に癒されるらしく、やたらカラダを触ろうとする。 (オイオイ!) ま、猫たちは、とーぜん全力で無視&疾走。 春先になると、猫の喧嘩の声がよく聞こえた。 「うぎゅ〜」「ぎょー」 そんな応酬を何回かすると、大抵、「どすっ。ガラガラ。」周りの物にぶつかりつつ。 *1 そんな音を発しながら、喧嘩してる。 その音を聞くと。そろそろ春が来るんだなー。てすこし明るいお気分になったっけ。 だいたい3月頃だったような。。 自治体が作った 猫の不妊・去勢手術は飼い主の責任です 町のあちこちにぶら下がってた看板が妙にしっくりくる。 猫が路地を歩いてる姿は微笑ましい。 けど 高級住宅街では、徘徊している猫を見かけることがあるだろうか? と、考えることがあった。 あまり想像できなかった。 この微笑ましい光景は、繁華街の端にある、独特なロケーションが大いに関係していると思ってた。 地元民が少ない町。 どこからかやって来て、ここに居る。 流れ着いた? 実際、町の隅にある高架下に、ダンボールに寝泊まりしてるおっさんたちも、 徘徊猫と同じくらいの数居た。 その高架下は、いつも静かに人が寝てるけど、 たまに、全然人がいなくなる時があった。 ダンボール寝具も、身の回りの物も、何にもなくて。 コンクリートのみ。 一掃された?どこに行くんだろ?? 何にもないけどオシッコ臭くて、よく見ると、足元のコンクリートのあちこちに染みがあった。 そこで横になってた: 今までの人たちの記憶というか記録というか。。 その繰り返しが定期的にあって、流れ者の整理がされてるようだった。。。

*1:点々のつく「が」とか「ざ」とか「ぎ」とか「ぢ」から始まり、「〜」で完結する

自分が借りてた古民家=1階店舗&2階アパート物件がある町は、繁華街に隣接してた。 なので、そのへんに住んでる人は、夜の繁華街にお勤めの方だったり、外国人だったり。 もとから地元!って人は少なかった。 昔は閑静な住宅街だったらしく。 町のところどころに超趣味を極めたような専門店があった。 お店=家主さんで。 その人たちが好きでやってるお店だったので、ひとつひとつが「濃ゆい」かった。 コンビニは少なく、生活感のあるお店は少なかった。 それでも、本屋さん、文房具屋さん、お豆腐屋さん、スーパー、ちょっとした定食屋さん。 それに、スナック(二階のおっさん達御用達)。 など、ポツポツとお店はあった。 が、隣町が繁華街だと、人はそっちでまとめて用事を済ませるみたいで、時間と共に町が衰退していくのを感じた。 本屋さんだったり文房具屋さんなんかは、気づいたらなくなってた。 突然できた更地の横を通り過ぎる時、 こないだまで、ココ、何屋さんだったっけ? すぐには思い出せなくて、しばらく考えて、「あ''〜っ」て ぼんやり浮かんでくる。 かつての佇まいが。。 だけど、アレって何屋さんだったんダロ。。 なーんとなくある飲食店諸々は、地元に住んでる人間が通う、気心の知れた店が多かった。 その日の気分で食べたいものが食べられる。 という店ではなく。 どちらかというと、 常連さんが好きだから用意している。 という品揃えのお店。 多分、その常連さんたちは、別の町に引っ越したら、 もうその店には足を運ばないんだろうな。て雰囲気のお店。 で、 そんな町にある自分の店の大家さんといえば。 敷地内には同居はせずに、その町からずっと離れた閑静な住宅街に住んでた。 自分が借りてる間は、ほとんど見回りにも来ず。 結局、最後まで顔を合わせた回数は片手くらい。 そのほとんどが更新の時くらい。 面倒なのか、信頼されてたのか。。。 顔を合わせないのは、気が楽だったし。 特に問題もなかった。 何年か経ち、 二階のおっさんたちの家飲みや麻雀大会もだんだん回数が減ってきたな。って感じるようになった頃。 チビと住んでた大雑把なおっさんが、「公団に当たったから」って、急に いなくなった。 2階に住んでた頃は、同居と言いつつ実際は、廊下に置かれたカラーボックス=靴箱下の段にチビの寝床があって、 百均の猫缶を1日2回あげてるだけだったから、 じゃ。って簡単にいなくなった。 隣のおっさんに、猫をよろしくな。って言い残して。 大雑把なおっさんがいなくなったら、 2階の 宴会の声や 麻雀大会のジャラジャラや 「うぉ〜っ」ていう叫び声や 誰かが後ろにひっくり返ってるだろう「ドスン」という天井越しの振動や、 階段を降りる重たいひずんだ音がしなくなった。 テレビの大音量だけは相変わらず健在だったけど。 で、「よろしく」って言われても、1日2回の猫缶の出費は、残った几帳面なおっさんには無理だったみたいで。 チビはすぐに2階から追い出された。

飲食店をやってた。 つい最近まで。 そこは、昭和ヒトケタ築の木造二階建て。 亡くなった自分の父より早生まれ&長生き。 オヤジが死んでいなくなっても、 それより早生まれの「ボロ家屋」が残ってるのは不思議な感じ。 でも、よく考えたら歴史的建造物なんて、その比じゃないけど。。 子供の頃から「古家屋」って憧れてた。 漆喰の白壁。 黒々とした梁。 柱と壁で建物の構造性を高めるから、自ずと壁の面積が多くて。 その結果、窓が少なく採光が限られてくる。 そんな暗さの中での「仄かな灯り」は美しく感じる。 立て付けの悪い「ガタガタ引き戸」はいいし。。 そこに、欄間があったらもう最高!! 店は、木造二階建ての一階部分の7割くらいを占めてた。 奥には、独身男性(団塊世代)が住んでた。 店の二階には、風呂無し物件が2世帯あった。 自分が店を始めた頃は、おっさんが2人住んでた。 もちろん別々に。 1人は几帳面な人で、毎朝、外を掃き掃除してくれてた。 もう1人は大雑把な性格の人で、猫を飼ってた。 名前は、チビ。 大雑把な性格のおっさんは、そんなにお金がないから、餌は百均で売ってる猫缶ばっかり。 餌をやる回数が少ないから、当然、猫はいつまでたっても「チビ」のまんま。 几帳面なおっさんは耳が悪いみたいで、日中は、テレビの大音量が2階から降ってきてた。 テレビショッピング〜♪ 昼のドラマ☆ 夕方のお相撲!! だけど、あんまりニュースの声は聞こえて来なかった。。 独身のおっさんたちは、 いっつも2階にいて、 仲が悪くはないみたいで、 時々友達をよんで、 お酒を飲んで、 麻雀して、 ウォーっ。て大声出して。。 夜のニュースの時間になると、誰かが「帰るぞー!」 重たい足取りで木造階段を降りてくる音がする。 時間を開けずに、別のおっさんが階段を降りてくる音がする。 時には、ガハガハ大声で喋りながら。 時には、悪態をつきながら。 何人かのおっさんたちが、ギシギシ音を立てて次々と木造の階段を降りてくると。 必ず誰か1人が階段を踏み外す音がする。 ドドドド。。。。ッ おっさんたちは慣れたもんで、滑り落ちてくるおっさんを途中でせき止める。 「あ''ー。。イテテッ」 おっさんたちの必ず誰か1人が、 「この階段はョ〜、いっつになったら。。。」 愚痴を言い悪態をつきつつ、ワイワイと夜の町に出かけていく。 おっさんたちご贔屓のカラオケスナックに向かって。。 既に平成になってからかなり時間が経ってたけど、木造家屋の2階だけは妙に昭和だった。